斜陽

「お金を貸してほしい」
母からメールが来た。

逆オレオレ詐欺…ではない。
ちゃんと本人の携帯から。

固定資産税が払えない、だって。

実家の面積は微々たるものだけど
おじいちゃんの遺産の土地が
かなり広いらしい。

そんな面倒みきれない土地なんか
売っ払ってしまえ!
と思うが。

「…っていうか、現実的な話していい?
Tを働かせりゃいいんじゃない?」

言ってみた。

Tは私と年子の弟。
バイトすらしたことのない
勤労未経験者。純然たるニート。

大学を卒業したあとも
学生時代のアパートに住み続け
家賃・生活費 すべて仕送りしてもらってる。

「Tはうつ病みたいな感じで…
大学を卒業したときに認められなかった
っていうのがあって…
場所を移るっていうのも…
慣れとる所を離れるのは難しいだが。」

つまり 今の状況を変えられない
と、母は言いたい様だった。

やりたいことが認められなかったら
認められる方法を模索するしかない。
それか 別な道を探すか。

もう12年経つのに
卒業したときに認められなかったことに
未だ こだわってるんだ…

仮に うつ病みたいな感じで 何もできないなら
お医者さんに診断してもらえばいい。
診断書があれば 社会的資源を利用して
無理のない就労ができる。
たとえ最低賃金でも 無収入より
ずっといいに決まってる。

実家は税金が払えないほど困窮しているなら
慣れとる所を離れるのが難しい、とか
悠長なこと言ってる場合じゃなくて
実家に強制送還して
無駄な家賃、光熱費を削減すべきじゃないか。
年金暮らしだから もう無理だって
現実を突きつけてやればいいじゃないか。

そう思って あとで母にメールしたら
「男と女は違う」
「男は 繊細だけぇ」
と、父が言ってて 足踏み状態らしい。

繊細だって?

冗談に思えるけど
これは本気で言ってること。

繊細だからって 働かない理由にはならないね。
何も言わず考えず
仕送り一切やめてやればいいよ。

思っても、父には何も言わないし、言えない。
私には 話す権利がないらしいから。

こんな両親に私は育てられたんだ・・・
そう思うと 非常に感慨深いものがある。

「ところで、Kは?」

Kは もうひとり別の弟。
会社員になったとは聞いたけど
彼をすっ飛ばして 私にお金を借りるって…
また 何かあったのでは、と
少し気がかりで、訊いてみた。

「今年 おばあちゃんが卒寿だが。
それでちょっといいお祝いをしようと思って
それでもう お金を借りとるだが」

「・・・そうなんだ・・・」

元気なんだ、よかった…じゃなくて
それ、おかしいだろ!

絶対おかしい!

税金払えないのに
なぜ無い袖を振ろうとするんだ。
真心を込めた 手作りでいいじゃないか。

というか、米寿のときは
おばあちゃんの絵を描いて
プレゼントしたじゃないか。
なんでお金がないのに 今回はそうしないんだ?

…たぶん 別な事情で
借りたんだろうね。
妙に口ごもってたし。

もとは良家かもしれないけど
現実みてほしい。
見栄とか世間体とか いらないから。

惨めかもしれないけど
ちゃんと 向き合ってほしい。