侵食

ひとつのことを、考え続けられない。

ふっと風向きが変わる感じで、その瞬間
意識が別な方を向いている。

ただ感情だけが残されて
うれしかったり、イライラしてたり

でも、なぜそんな気持ちになっているのか
風向きが変わってしまうと、よく思い出せない。

いつか、また同じ風が吹いたなら
記憶はリアルに復活を遂げる。

復活を遂げるたび
深みを増して、より強固になる。

心を許した人がいた。
憧憬していた いちばん大切な人だった。
ここまで長い長い時間がかかった。

ようやくつないだ信頼の糸を、その人は切ってしまった。

理屈を得意とするその人が
来たしてしまった、理屈の破綻。

私は冷静に、驚くほど冷静に突っ込んだ。

その人は、やっぱり理屈を並べたけれど
あきらかに、そして完全に詰んでいた。

その瞬間、風は吹いた。

意識がよそを向いてしまい、私は黙って立ち去った。

何でこんなにイライラしてる?
何でこんなに…悲しいんだろう?

あれから何度も何度も、風向きは変わった。

この記憶、何回復活したのかな。

なんで理屈が破綻したのか。
私の納得がいく理屈で説明してくれたら
切れた糸は きっと修復するんだろう。

結び直したい。だけど
少しの振動で崩壊してしまいそうな
はかない糸。

記憶が復活するたび、大切なものが
私をかろうじて支えていたものが

少しずつ、少しずつ

侵食されていく。

異次元

Posted by 禅寺丸