A path

あの日、職場からの帰り道
曇っていたけど 朝からの雨は止んでた。

私は 自転車に乗っていた。
川は増水していた。

川は道路のすぐそばで
でも道路ほど水面は高くなかった。

その道路の片隅、マンホールの上
あのコはバタンバタン跳ねていた。
遠くから見てもわかるくらい、高く。

「ええぇ?」

50cmほどもある コイが
道路の上に のぼってきていた。
あんな跳ねたら傷だらけになる
っていうか、もう血まみれじゃないか。
いたいいたい…。

車通りは わりと多い。
あのコのそばを 車がゆっくり
通り過ぎてる。

…あんな跳ねてるのを見たあとで 明日
轢かれて死んだ あのコに再会とか
ありえんし。

何かわからないけど
あのコのそばに突っ込んでいた。
持ち上げようとすると あのコは暴れる。

摩擦で傷つけるのが怖くて
無理に持てない。

うしろのほうで
通りがかりのおばちゃんが
何か話しかけてくる。

何を答えたかも おぼえてない。
車が来てたのも知ってる。

絶対に 私は邪魔だったはずなのに
クラクションを鳴らさないでくれる
優しいドライバーだ。

カバンの雨よけに使っていた
買い物袋を引っ張り出して
あのコを慎重に入れた。

そして、川に放した。

通りがかりの おばちゃんは
「あんたがやらんかったら
私がやろうと思っとった」
と 言った。

そっか。私がやらなくても。
でも
私は あのコを川に帰さずにいられなかった。
それだけのコト。

「そうなんですか、でもよかったです」
おばちゃんと別れた。

あのコを入れた買い物袋も 血まみれだった。
服を見ると 剥がれてしまった鱗が一枚。

それは2cmくらいもあった。

おっきくなったね
よく生きたね

#いきもの #日記

季節

Posted by 禅寺丸