はじめてのこと

よく ふらつく。

仕事とか通勤とか
一日15時間以上立ってることはザラだし
睡眠時間はおよそ4時間前後だし
満員電車のあととか 階段いっぱい昇ったとか
諸々、ふらつく要素はある。

ひとは そんなこと知らないし
知っても 実感できるわけではないし
いつでも 色のない空気のような景色だ。
ときどき迷惑そうな。

電車の中で おもいっきり倒れ込んだときも
私が 何ともないような様子をみせたら
ひとも 何ともないような景色だった。

私が いつものように笑うと
ひとも笑って なんだぁ、ってなる。
私が申しわけなさそうだと
ひとは しかたないなぁ、ってなる。

あのときも 私はふらついて
そのひとは「大丈夫ですか?」と言った。

気が遠くなってたのか
そのひとが わざとそうしたのか
あまりにも小さな声で 軽い感じに聞こえて
とりあえず、ノリで言ったのかなと思った。
そういったひとは いっぱいいる。

大丈夫アピールの一環として
「あぶな~い」と 自分でつっこんで笑ったり
ふざけたりすることもあるけど
この日私は 呼びかけには答えなかった。

そのひとと会って
ちょうど帰り際だったので
何事もなかったかのように いつものように
微笑んで「失礼します」と言った。

あ、なんでもなかったの?って感じで
にこやかに別れるのが よくあるパターン。

ところが そのひとは
なんか パターンと違った。

ふつうに あいさつ返してくれたけど
目や表情が真剣というか
心配してるのが 言葉を介さなくても伝わった。

こんなのは、はじめてだ。

立ち去るその瞬間まで
ずっと そんな空気が感じられた。

“とりあえず、ノリで” じゃなかったんだ…

なんか申しわけないような
切ないような うれしいような
いろいろ混ざった なんとも言えない気分だった。

心根がやさしいって
こういうひとのことをいうのかな。