幻想

青果の仕事をしていると
虫と よく出会う。

この日はサニーレタスを蘇生していて
水面に小さなクモが浮かんでいるのを見つけた。

クモは葉っぱの切れ端の上に漂着したけど
水が流しっぱなしなので ゆらゆらと
また水中に落ちそうだった。

葉っぱの舟ごと手のひらに乗せると
最初 縮こまってたクモは
やがてちょこちょこ 私の手の上を歩きだした。

この子どうしようかな…
またうちに連れて帰って逃がすかな…
考えていたら

手の裏側に回って小指の先で
ふっと見えなくなった。

落ちちゃった?
下を見ても姿はない。

どこ行った?

小指の先をもう一度見ると
虫のちいさな死骸が
ひとつ乗っかっていた。

足をぎゅっと畳んで
何の虫だかわからなかった。

…さっきの子なのかな。

どこにも触れていないし
商品の野菜を水に浸けている最中だから
毒がついているはずもない。

クモさん
最初っから死んでたのかな。

ずっと寒くて冷たい 葉っぱの隙間。
ちょっとだけ
ほんのちょっと
外を歩いてみたかったのかな。

実はそれも幻想で

今日もどこかを
ちょこちょこ歩いているのかな。


白梅がきれいだよ。