der spiegel

 夕方、カラオケでリコーダーの練習をしていた。

一曲済んで、次の曲の練習をする前に
気分転換に携帯をつつこうとしたら
電話がかかってきた。

…“家”から。
 
「はい」と無機質な返事をした。
「ああ、今ちょっと時間いい?」…母だ。

「うん。何?」
「おじいさんが亡くなった」

はい?
短すぎてよくわからなかったんですけど。
 …なんてことは思いはしなかった。

ただ言葉が短すぎて
事の大きさが追いつかなかった。

「うそ。あんな元気だったのに」
「いや、急に亡くなっただが。
デイサービスに着いたら亡くなっとったみたいで。
お母さんも おばあちゃんの所に行っとったのを
急遽戻ってきて…」

おばあちゃんは広島県にいる。
おじいちゃんが居る実家は鳥取県。

デイサービスで亡くなった…つまり
母は今日一度広島に行って
即鳥取に戻ってきたということだろうか。

「急だけど明日の12時半、帰ってこれる?」
「あ、大丈夫」

私も、母も
恐ろしく淡々と話す。

気を失いそうなくらい緊張してるのに。
とりあえず…明日の朝5時半…。

電話のあと、笛が吹けなくなった。

肺活量が70%くらいになったみたいで
指は力を失って、練習にならなかった。

あぁ、笛吹こうとしたら
こんなになるんだね…

張りつめた気持ちの下
マヌケなことを ぼんやり考えていた。